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2006年 10月 19日
動物はすべてを知っている Vol.1
動物はすべてを知っている Kinship with All Life
SB文庫
著者 J.アレン・ブーン
訳者 上野圭一
発行 ソフトバンクパブリッシング(株)ソフトバンククリエイティブ株式会社
2005年6月18日初版発行
(※本書は1998年4月 講談社より刊行された『ヒトはイヌとハエにきけ』を改題し、文庫化したものです。)

わくわくする発見
P70~
 わたしは失望したが、どこかでかすかな希望の光も感じていた。裏口のドアの隙間からストロングハートの尻尾が消えた瞬間、質問が失敗した理由にまつわる、ある心証を得たような気がしたのである。その心証は、だれかが耳元でささやいたように、私にこう告げていた。
 ストロングハートはおまえとみつめあいながら終始こころを伝えようとしていたのに、その沈黙のことばを理解するだけの力がおまえには欠けていた。だから、かれはやむなく実験を延期することにしたのだ。おまえにイヌとの理性的な交流をするだけの準備ができるようになるまで・・・・
<中略>
 冒険的かつ教育的な彼との共同生活がつづくにつれて、わたしはまた、こころときめくような発見をすることになった。すなわち、わたしがストロングハートにたいして「イヌあつかい」をしなくなればなるぶんだけ、かれもまた、少なくともわたしにたいするときは、「イヌのように」ふるまうことをしなくなる、という発見である。
 そして、そのわくわくするような発見が重なるにつれて、われわれはたがいに理性的な仲間として相手を受け入れるようになり、われわれの血縁関係をへだてていた壁がくずれはじめたのだった。





イヌが「教え」ヒトが「学ぶ」
P74~
 唯一の解決法は、モハーベ・ダンがくれた、あの貴重なアドバイスに文字どおり完全にしたがうことしかなかった。それまでは部分的にしかしたがってこなかった。こころのどこかで、自分のほうがものを知っていると思い込み、いのちの知的な表現者としてのストロングハートが共有しているかもしれないことにたいして、配慮がじゅうぶんでなかった。
 自分が犯している不公平に気づくことなく、たまたま「人間」に生まれたという理由だけで自分を上位に置き、「イヌ」であるという理由だけでかれを下位におくような関係を、無意識のうちにつくってきた。
 わたしは百八十度方向転換をすることにきめた。
 頭の中にあった人間と動物との関係についてのあらゆる先入観を捨て去り、当然だと思っていた「ヒトがイヌを訓練する」という慣習そのものをひっくり返して、「イヌがヒトを訓練する」というこころみに挑戦してみようと考えた。わたしという男、ヒトという種がもつプライドを捨て、知性や教養の邪魔を排除して、可能な限り頭を低くしてでしゃばらず、イヌに教えを請い、イヌが本気で私を教育するにまかせようとしたのである。
「イヌにかんする事実はイヌからじかに得よ」という、モハーベ・ダンのアドバイスにしたがうにはそれしかなかった。
 ストロングハートは「教授」となり、わたしは「生徒全員」になり、室内であろうと戸外であろうと、いくところはすべて「教室」となった。ストロングハートに肉体が大地をはねまわっているあいだは、それがカリキュラムの行われる環境だった。
<中略>
 わたしは、イヌをはじめとする動物全般にたいして、かなりあやまった信念をいだいていた。事実を頭に入れるには、まずその信念を頭のなかからおいださなければならなかった。それには訓練が必要だった。驚嘆をもって世界をながめ、世界を味わう訓練、内的にも外的にも柔軟でありつづける訓練、期待に胸をふくらませる訓練、よろこんで事実につきしたがい、事実がみちびくところにおもむく訓練などである。

<中略>
内なる目がひらくとき
P85~
 すると、また例の啓示的な経験がやってきた。それはストロングハートとの仲がふかまるにつれて、訪れる回数がふえてきている経験だった。なんの意識的な努力もしないのに、それまでに知らなかった重要な事実を、とつぜん自分がしっていることに気づくのである。そのときに訪れた予期せぬ了解にも、わたしはとまどいを感じていた。とつぜん了解したのは、つぎのようなことであった。
 わたしはそれまでに世界のあちこちで、あらゆる種類、あらゆる条件の、何百頭というイヌをみてきたが、それはすべて知性が観察したにすぎず、実際はただの一頭のイヌについてもわかっていなかった!一頭のイヌのこころもわからないままに、ただイヌ一般をみてきただけだった。
 その日の昼間、ストロングハートがビーチで遊んでいるのを見ながら感じたもの、かれがわたしの顔をみあげ、尻尾でばさっと毛布をたたいていたときに、無言のうちにおこったもの、そして、たったいま、暗闇をみつめながら起こっているものがなんであるかが、すこしずつわかりはじめていた。
 かれ独特のシンプルな方法で、ストロングハートは私に奇跡を起こそうとしていたのだ。盲目だったわたしの内なる目をひらかせ、イヌをみたときにイヌがほんとうにわかるようになるという奇跡・・・・。

Vol2

by sadomago | 2006-10-19 13:38 | 生態系


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