2005年 12月 16日
中学生以上のすべての人の “よりみちパン!セ” 「さびしさの授業」 2004年12月20日 初版第1冊発行 2005年6月10日 初版第4冊発行 著者:伏見憲明 発行:株式会社理論社 「ふつう」って、なんだろう? 「変わっている」と思われる子どもがたまにいます。 ぼくも幼少の頃よくそういわれましたし、これを読んでいるあなただって、もしかしたらそんなレッテルを周りから張られているかも知れません。 「変わっている」と見られるのは、その子に、ほかの多くの子どもと異なる特徴や雰囲気があるからでしょう。もっというと、その子に予測がつかないところがあると言うことです。子どもというのはこういう口のききかたをする、こうした態度をとる。こんなものを喜ぶ・・・といった周囲の予想を裏切るような行動を、彼、彼女がとるわけです。 ぼくの場合、普通の男の子が欲しがるような物――たとえば、野球のグローブだとか、サッカーボールだとか――に関心を示さなかったり、野球で集団で遊ぶことを好まなかったりしたのが、大人たちに奇異な印象を与えていたようです。 そして、子どもの頃のぼくは、「変わっている」と言われるたびに、自分が何かやましいことをしているような気持ちになって、心の中で自分を責めていたのです。もっと普通にならなければ、と。 しかし今考えてみれば、それは子どものぼくが悪いのではなくて、ぼくを受け止める身近な人間たちの想像力に限界があったということでしかないでしょう。○○歳くらいの男の子はこういうものである。という彼らの頭の中の常識よりも事実はもっと多様で複雑だったわけです。 ・ ・・・・・・・・・ もしも、幽霊が見えてしまったら? そんなふうに考えると、次に紹介する映画『シックス・センス』(原題はThe Sixth Sense)はまんざら絵空事だとはいえないかもしれません。 ・・・・・・・・ さて、この映画の主人公は、ぼくら凡人にはない未知の能力を持っているがために、子どもの身ながらつらい思いをすることになります。 彼、コール少年には、幽霊が見えるのです! 見えるだけではなく、それらに脅されたり、話しかけられたり、苦しみを訴えたられたりします。 けれでも、幽霊の姿を見ることが出来ないほかの人は、そんなコールの恐怖や苦悩を察することができません。それどころか、コールを変わり者として疎ましく思っていたりするのです。 無理解は、コールのお母さんも例外ではありません。 ある日のことです。コールにキッチンで朝食を与え、となりの部屋でさっと用事を済ませて戻ってみると、彼女はその場の光景にぎょっとします。そのあいだたった数十秒だったにもかかわらず、いっせいにキッチンにある戸棚の扉が開かれ、ありとあらゆる引き出しが引っ張り出されていたのです。 コールはさっきと同様にイスに座ったままです。一瞬のすきに幼い子どもに、そんなことが出来るとは考えづらいのですが、その場には自分の息子しかいません。お母さんは、何かおかしいと感じながらも、コールに不信感を募らせるしかありません。なんでわざわざこんないたずらをするのだろう?どうして自分を困らせることばかりするのだろう、と。 いっぽう、コールは、その不思議な現象が幽霊の仕業だとは想像もできないお母さんのことを、よくわかっています。どうせお母さんにいっても信じてもらえない。なぜならお母さんには彼らが見えないのだから・・・。 コールという少年は、大人のように寂しげな表情をします。周りの者たちに自分を信じてもらえないことの悲しみを、9歳にしてひとりで受け止めているのです。そして、それゆえに心の中から他人をシャットアウトし、周囲に、斜に構えた態度をとりがちです。・・・・・・ コールは、自分のことを理解できない学校の友だちや先生を見下すことで、その寂しさに抗しているのでしょう。そして彼のそうした態度が、また周囲の反発を買って・・という悪循環で、いつしかコールは学校の問題児となっていたのです。 先生は何もわかってない しかし、そんな彼の前にある日、小児精神科医のマルコムが現れます。彼もまた、コールと同様、傷ついた人間でした。 マルコムは、市長から市民栄誉賞を贈られるほど優秀な医師で、美しい妻と幸福に暮らしていました。彼自身、多くの子どもたちを治療してきた実績に自負もあり、自身に満ちていました。 が、1年前の結婚記念日の晩に、その人生は打ち砕かれます。 その夜、ベッドルームに入った夫妻は、自宅に誰かが忍び込んでいることに気がつきます。そしてすぐわきにあるバスルームの中に半裸の男の姿を見つけます。はじめマルコムはそれが誰だか、わかりません。 男は常軌を逸したように言葉を繰り返しています。「なにもわかってない」「怖い」「化け物といわれた」「オレは化け物じゃない!」 マルコムはしばらくして、それがもと患者のヴィンセントだということを理解します。成長した彼の姿からすぐには分かりませんでしたが、記憶をたどるうちに、10年前に担当した少年を思い出すのです。 その子は、強い不安感にさいなまれ、社会的に孤立し、情緒不安定の症状を呈していました。当時マルコムはそれを、両親の離婚による心因性のものだと診断していたのです。 けれど、ヴィンセントの不可解な心の状態もまた、人に見えないもの、つまり幽霊がみえてしまうことが原因だったと、後になってマルコムは理解することになります。彼は未知なるものを恐れ、もがき苦しんでいたのでした。 成長して今、バスルームにいるヴィンセントは、かつてマルコムが結果として彼を救えなかったことを、泣きながらなじります。「おれを治せなかった!」――マルコムにはなすすべもありません。 結局、ヴィンセントはマルコムに銃弾を浴びせ、自らも頭を打ち抜いて自殺します。 以来、マルコムはヴィンセントを助けられなかったことを悔やみ、仕事に没頭するあまり、妻アンナとの関係も上手くいかなくなってしまいます。そんなときに関わることになったのが、ヴィンセントとそっくりの症状を示すコール少年だったのです。 マルコムはコールに熱心に関わっていきます。コールを直すことでヴィンセントに許しを乞おうとしているかのように。 しかし、コールはそんなマルコムを、「いい人だけど、先生はぼくを救えない」といって突き放し、なかなか心を開こうとはしませんでした。 実際、マルコムにはコールの本当の悩みをとらえることは出来ませんでした。たとえば、コールのからだにつけられた傷を「自己防衛による自傷行為」と解釈します。つまり何かの抑圧から自分を守るために、自らを傷つけて、SOSのメッセージを暗に発している、とマルコムは考えたわけです。 たしかに、精神医学の考えかただけでものを見ようとするマルコム医師には、そのようにしか分析できないのでしょう。 けれどもそれは、やはり幽霊の仕業だったのです。 コールはますます彼を取り囲む人間関係の中で追い詰められていきます。 学校の授業で教師が、コールたちの学んでいる校舎が百年前に何に使われていたのか、という質問をします。先生はただの裁判所だったと思っているのですが、コールには別の事実が見えているのです。手を挙げて、彼は答えます。 「絞首刑をやったところ。・・・囚人を連れてきて家族と別れさせ、見物人はつばを吐きかけた」 が、先生はコールのいうことを否定します。子どもがそんな残酷な話をすることに不安を感じたのでしょう。 それに対してコールは自分の気持ちを抑えられず、ムキになって反発し、やはり彼だけに見えている、先生の子ども時代のつらい思い出を刺激するような言葉を吐くのです。「しゃべり方がヘンだ!」と。 先生は少年だった頃、吃音で友人たちにからかわれていたのでした。コールはそのときのいじめっ子たちのように、何度もそう叫んで、先生を切れさせてしまいます。 「だまれ、化け物!」 そう叫んだ先生は、コールの机を激しく殴りつけます!と同時に、自分の口にした言葉の卑劣さに、我に返るのです。自分の大人げなさを後悔したのでしょう。 ゆっくりと信じて待つこと Vol2に続く
by sadomago
| 2005-12-16 06:50
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