2005年 10月 17日
“ れんこん ”ホームスクールネット http://www.ne.jp/asahi/homeschool/renkon/ アメリカホームスクール事情 http://www.ne.jp/asahi/homeschool/renkon/essay_america_hs_jijou.htm 我が家の13歳と8歳になる二人の息子は、アメリカに来る前も今も、学校に通わないミスター・オールサンデーだ。昼間ブラブラしているので、人から「学校は?」と聞かれるといちいち説明に面倒だったが、こちらに来てからは「彼らはホームスクーラーですから」という一言で済むので、実に楽チンである。 ホームスクーラー。日本では馴染みの薄い言葉だが、アメリカでは、学校に通わずに家庭を基盤にして、それぞれに合った学びを実践する5歳から17歳までの学齢人口は百万人にも上ると言われる。 ホームスクーリングは現在アメリカすべての州で合法で、各地に法律面、教育面で、子どもやその親をサポートする支援団体があり、地域で孤立しがちなホームスクーラーとその親たちを直接、間接的に支えている。 さらに何と言っても大きいのは、インターネットを通してのネットワーキングと情報提供だ。何時間利用しても市内通話料が基本料金を超えることのないアメリカでは、どんな偏狭の地に住んでいても、インターネットに接続するだけで、いずれかのサポートグループにリンクし、意見交換したり、助言を求めることができる。 また数ある情報誌を開くと、ホームスクーラーをターゲットにした教材やサイエンス、スポーツ、アート教室など、夥しい数の有料サービスの広告が次々に目に飛び込んでくる。先日参加した会議で、あるスピーカーが、アメリカでは今や学校でないと学べないことは何もない、と断言していたが、この国の教育業界がここ20年ほどの間に、社会の現実に沿って大きく変革してきたのは間違いない。 ホームスクーラーと一言でいっても、その実践の形態や信条は実に様々で、宗教教育の重要性と親の教育権を強調する保守層から、管理的学校教育に反対し子どもの権利を主張するリベラル派まで、その幅は広い。最近ではホーム・スクーラーという呼び方が、家庭を学校化させる意味合いが強くて馴染まないという理由で、自分たちをアン・スクーラー(unschooler)と呼ぶ層も増えたようだ。 たとえば、家で親や家庭教師などの指導の下、カリキュラムや時間割に沿って勉強し、年に一度は自主的に学力標準テストを受けて、習熟度チェックをするのがホーム・スクーラーの典型だとすれば、アン・スクーラーの多くは、教科や時間割などの枠に縛られずに、自分の好きな遊びやボランティア、教会活動などを通して日常の生活の中から自然に学び育つことに価値をおく。 しかし、実際には両者の境界は極めて曖昧で、大多数はこの間を行ったり来たりしながら自分に合ったスタイルを模索しているのが現状のようだし、総称的にはホームスクーリングという言葉が広く使われている。 80年代以降、アメリカでこれほどホームスクーリングが普及した背景には、マスコミ報道に見られるように、若年犯罪の高まり、教師による相次ぐ虐待の発覚で、学校での子どもの身の安全に対する危機感が親たちの間に高まったという現実も見逃せない。ホームスクーリングを選んだというより、やむなく一時的な避難所としてこの道を利用する人が多いのも事実だ。 しかし、最初のきっかけがどんなものであろうと、私がおもしろいと思うのは、学校を離れて新たな生活を組み立てていくプロセスの中で、親も子も学びとは何かを繰り返し問い直し、引いては、自分の生き方そのものの哲学を迫られてくることだ。 子どもの日常生活の変化は親にも影響を与える。たとえば、家で過ごすようになった子どもと一緒にいられるように、仕事時間を調整したり、ホームオフィスに切り替える親も少なくない。「ホームビジネスの始め方」といった親向けの実用的ワークショップが開かれたりする。これまで、学校や会社のカレンダーに合わせて調整していた生活が逆転して、私生活に重点をおいた学びや働き方を求めるようになる。 変化するのは物理的空間や時間だけではない。人は何歳でどの教科をどこまで習得すべきかという、学びについてのスタンダードをどこにおくか。何を学びたいのか。どうやったら効果的に伝えられるか。何をしているときが一番楽しいのか。こうした問いを子どもに問いかけながら、親もまた自らの学びや生活の優先順位を振り返っていく。日常の何気ない営みを、自分なりに必要な学びのプロセスとして定義し直していく。 こうしたさまざまな変化を、個々の家庭がストレスとして抱え込むのではなく、発見と出会いの喜びに変えていくのに大きな役割を果たしているのが、全米に広がる大小のサポート団体であることは、いくら強調してもしすぎることはないだろう。 最後に、地元の支援団体の小冊子から一部引用。 「今あなたが下そうとしている決断は、まずはこの一年に限られたことで、一生の決断ではありません。だからリラックスして、柔軟かつ現実的に考えましょう。ゆっくりと、子どもを、そしてあなた自身を信頼してよいのだと学んでいけるはずです」 (「くらしと教育をつなぐWe」2002年6月号掲載分 関連記事 書評 「不登校という生き方」
by sadomago
| 2005-10-17 06:26
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